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『すべての、白いものたちの』ハン・ガン著

幾つもの人生の中でも、ふとした時に訪れたくなる本がたまにある。それは、そっとしておいて欲しい時や、一人になりたい時に、開く本。僕はずっとずっと、このような本を探していた。

日本に溢れる本は、やはりまだ説明的なものが多いというか、アート的な言葉を紡いでいる本、つまりは本当の純文学は見当たらない。昭和や明治の頃は、もっともっと感情のままに言葉を綴っていた作家が多い気がする。デジタルが普及する時代で、感じることではなく、伝わることが優先されてしまった世界。そんな世界の中で、この本がノーベル文学賞を受賞したのは、大きな変化なのではないだろうか。

なんとなく開いて、感じられるものがある。物語を辿らなかったとしても、その頁に書かれている言葉を、なぞるだけで、著者が見ている世界に溶けることができる。そんなものが、純文学のあり方であると、わたしは思う。

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