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季節という、呪縛。

いつも通りの日常で、思い出したいつかの春。その色はいつまでも褪せないまま、僕の心に沈澱して、ゆっくりと心に溶けている。少しだけ雨が降ってきて、傘を刺さないまま歩いてみる。帽子を被っていたから、そんなに気にならなかったけど、雨は強く降っていたみたいだ。ゆえに心がだんだんと冷えてきて、行き交う人々の顔がどんよりとして見える。

停留所に停まるバス。人が乗っていることを確かめて、乗車する。不思議と、全員のことが憎く見えてきて、鋭い眼光で睨みながら、前に進む。穏やかな心が荒んでいることを感じて、そんな自分にも嫌気がさす。

バスの車窓から、桜が見えた。その桜は、大きな桜だった、一本の桜だった。桃色に色付いているその花びらは、まるで自分のことを嘲笑っているような気がして、少しだけ嫌気がさす。

「心の中では、何を思ってもいいんだよね。」

「そうだな。」

「じゃあ、ここにいる全員、消えてなくなればいい。」

「そっか。」

「なんで未来がある中で、私たち生きているんだろう。」

「過去があまりにも汚いから、とか。」

「でも、過去は変えられないわ。」

「未来だって、見えないままだ。」

「でも未来は、必ずやってくることを約束してくれている気がする。」

「そうとも限らない。」

「嫌なの。」

「なにが?」

「染まっていくのが、心が世界に、染まっていくのが。」

普遍で終わることが嫌だった。何者かになりたいと思う心が邪魔をして、上手く生きることが出来なかった。空の匂い、春の風。全部全部、爽やかなままで終わるこの季節が嫌いだった。

言葉ではなく形で、日々を感じることが出来たなら、そうやって手に取るように、肌を擦り合わせるように、生きることが出来たなら、きっとまた、あなたに会えるのかな。

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